歯槽膿漏
歯槽膿漏とは
歯槽膿漏とは病名ではなく歯周病の状態を表現するために使われています。文字通り歯茎から膿が出る状態で主に中等度〜重度歯周病に現れます。
歯周病は歯の周りの歯周組織といわれる部分の病気です。歯周組織はセメント質(歯根を覆う硬い組織)、歯茎(歯肉)、歯槽骨(歯が生えている顎の骨)、歯根膜(歯と歯槽骨を繋ぐ膜)のことで、成人では約80%以上が歯周病に罹っています。歯周病は自覚症状が少なく慢性的に徐々に進行します。度合いは軽度から重度まで分類することができ、軽度では歯茎の軽い炎症程度で自覚症状はほとんどありません。中度以上になると、炎症が進みブラッシング時の出血やネバネバ感、口臭が現れます。重度になるとこれらの症状のほかに、膿が出る、歯が動く、食べ物が噛めない、歯に食べ物が詰まるなどの症状が現れます。重度の歯周病は急性化しやすく痛みや腫れが現れます。また、重度になると歯としての機能は著しく低下し、物が上手く噛めないことによるストレスや他の歯に影響を与える場合は抜歯することもあります。
平成14年に厚生労働省が発表した「患者調査の概況」によると、歯および歯の支持組織の疾患の総患者数(継続的に歯科で歯周病の治療を受けた人数)は
487万人で前回の平成11年調査に473万8000人と比べると 2.8%増加しています。性別では男性206万8000人、女性が280万3000人で、女性が70万人以上も多いという結果になり年々増加傾向にあります。
歯周病の原因
歯周病の原因には歯周病菌、歯ぎしりや食いしばり、喫煙などがあります。このうち最も多い原因が歯周病菌による細菌感染です。歯と歯茎の境目や歯周ポケットに細菌が侵入し繁殖し歯垢(プラークともいいます)を形成します。1mg中に10億もの細菌が存在し十数種類の細菌が歯周病の発症に深く関係しております。
細菌には大きく分けると酸素を必要とする好気性菌と酸素を嫌う嫌気性菌の2種類があります。これらの細菌は代謝の過程で人体に有害な毒素(エンドトキシン)を出し、ブラッシングを怠ったり、ストレスや抵抗力が下がるとより多くの症状が現れます。好気性菌は歯茎の上で繁殖するため主に歯肉の炎症を引き起こし、嫌気性菌は歯茎の中の歯周ポケットで繁殖し、歯周組織(歯肉、歯槽骨、歯根膜、セメント質)全体の炎症を引き起こします。
また、細菌が石灰化したものを歯石といいます。歯石は歯垢が石のように固まった状態ですが、歯垢を約2日間放置するだけで食べ物や唾液中のカルシウムと結合し石のように硬い歯石を作ります。歯石自体が細菌の住処になり、徐々に蓄積され、同時に歯周ポケットも進行する悪循環に陥ります。歯石が付着するとブラッシングで取ることは極めて困難になり、歯科での機械的除去が必要になります。
歯ぎしり・食いしばり
歯周病は歯ではなく歯の周囲の組織(骨や歯茎)が炎症を起こすことです。前途したように重度になると「歯槽膿漏」と表現されに常に歯茎から膿が出る状態になり、強い口臭を発生させるほか、高い確率で歯を失います。原因には歯周病菌によるものが多くを占めますが、原因の中で骨や歯茎に最もに負担をかけるのは歯ぎしりや食いしばりです。歯周病の症状が現れ、また、症状を急速に悪化させるほかに、歯が折れる、割れる、抜けるなどの症状や、口が開かない、顎が痛いなどの顎関節症はその代表例です。他にも知覚過敏、頭痛、首や肩こり、腰痛、眩暈(めまい)、耳鳴りなど様々な症状の原因となります。意識して自覚することが出来ないため悪化しやすく注意が必要です。
朝起きると顎が疲れていたり歯に負担がかかっていることがあります。これは睡眠中に過度の力が加わっているためおこる症状です。人は誰でも歯ぎしり、くいしばりをしますが、長期化するとこれらの組織に負担がかかり重症化します。歯を抜くほどの重度の歯周病の人は大体歯ぎしりや食いしばりをし、歯周組織に負担をかけています。まじめに歯磨きをしているのに歯茎から出血したり、歯が動く、歯が抜けるは歯ぎしりや食いしばりが原因かもしれません。歯周病の治療をしても効果がない人は歯ぎしりか食いしばりの治療しなければ効果はないでしょう。
喫煙
タバコの成分には様々なものが含まれています。とくにニコチン、タールの刺激は歯肉に直接作用し血管を収縮させます。血管が収縮すると歯肉の血行が悪くなり、組織に必要な栄養分の不足や免疫機能が低下します。その結果、組織が破壊され歯周病に移行します。更に煙に含まれる微粒子は、口の中の粘膜全体に付着し唾液の分泌量を低下させます。唾液の機能には、抗菌作用、粘膜保護作用、ph緩衝作用、歯の再石灰化、消化作用、自浄作用などでいずれもなくてはならない存在です。これらの効果がなくなると粘膜を保護できず、細菌の増殖も抑えることが出来ません。時間の経過とともに歯周病の悪化につながります。喫煙すること自体が歯周病につながり、また免疫力が低下することにより、細菌に抵抗できず病状が悪化します。喫煙者は吸わない人に比べ歯周病が多くなります。
低年齢化
歯周病は主に20歳以上の成人に見られる病気ですが、徐々に低年齢化しています。実際の臨床の現場では中学生を診察することもあり、成人顔負けに歯石がべったりと付着していることもあります。この現象は決して珍しいものではなく実際に増えています。低年齢化の背景には生活習慣の変化が大きく影響しています。食生活、ストレス、睡眠時間の深夜化が大きく影響しています。
中でも食生活は様変わりしています。物を噛まなくても飲み込める食材が多くなり、唾液を出す時間が短くなり、また唾液を出す必要がありません。代表的なものがスナックやファーストフードやインスタント食品です。これらの食品は噛んで唾液を出す時間が少なく、唾液による自浄作用が低下します。これらの食材は元々歯や隙間に付着しやすく取れにくい性質がありため、自浄作用がなくなると同時にブラッシングを怠ると口腔内の細菌が繁殖し歯垢を形成し歯周病へと移行します。
また、唾液腺は15歳までで成長が終了します。この時期までに唾液腺が発達していなければ将来身体機能が低下したときに唾液が出ず、歯周病の悪化、舌痛症、ドライマウス(口腔乾燥症)など様々な病気へ移行し生活が困難になります。
ストレスや睡眠時間の変化は自律神経に悪影響を与えます。自律神経には交感神経、副交感神経がありますが、ストレスや睡眠時間の深夜化では交感神経が優位になり、身体が休まりません。さらに交感神経には全身の血管や内分泌系に作用に、歯肉の血流低下や唾液腺を収縮させる働きがあります。さらに交感神経が刺激され続けると、リンパ球が減り免疫力の低下が起こります。リンパ球はウイルスや癌細胞などから身体を守る免疫の要です。身体が緊張し興奮状態が続くと歯周病だけではなく様々な病気になります。よって連続するストレスや睡眠時間の深夜化には注意をし、十分休養を取り心身ともにリラックスする必要があります。
歯周病チェック
歯茎から出血しやすい
歯に物が挟まる
口臭がする
虫歯がある
歯を抜いたことがある
タバコを吸う
ストレス・緊張がある
1年以上歯石を取ったことがない
一つでも当てはまると歯周病の疑いがあります。
予防方法
歯周病の予防にはブラッシングが第一です。現在大多数の人が1日1回または2回程度のブラッシングで、しかも極短時間で終了しています。粗いブラッシングでは歯周病の原因となる細菌を取り除くことは出来ません。少なくとも毎食後、間食や甘いものを飲んだ後には行うことが重要です。ゴシゴシと力を入れて磨くことはせずに、1本ずつ丁寧に、歯と歯茎の隙間を鉛筆を持つようにゆっくりと行います。また、1本につき10秒程度は時間をかけて行う必要があります。同時にデンタルフロスや歯間ブラシで歯と歯の間の清掃も行うと極めて高い効果が得られるでしょう。
仕事で忙しい方くブラッシングがどうしても出来ない方はガム(糖分のないシュガーレスガム)を噛むのも効果的です。ガムを噛むことにより唾液が分泌されます。唾液の機能には、抗菌作用、粘膜保護作用、ph緩衝作用、歯の再石灰化、消化作用、自浄作用などがあり虫歯や歯周病を抑制する効果があります。ただし、基本はブラッシングにあるため、補助的な役割として用いる必要があります。