顎関節症
顎関節症とは
「口が開かない」「音がする」「顎が痛い」これらを医学的に顎関節症(がくかんせつしょう)といいます。
顎関節症は顎の関節周囲の組織や筋肉の障害です。口を開けたとき、食事のときの「カクカク」「シャリシャリ」音する関節雑音、顎を動かす咀嚼筋の痛み、「口が開かない」などの開口障害や運動機能障害のいずれかを含む状態の総称です。その他、副症状として耳鳴り、頭痛、眩暈(めまい)などがあります。症状が現れるには様々な要因があり、その結果として顎関節症を発症します。症状が出やすいのは男性より女性が多く、なかでも20代から30代の女性に多く現れます。他の年代や男性には少ないという傾向があり、男性との性差(女性:男性)は約4:1です。
主な症状
顎関節症の多くは常時痛みが出ることは少なく、関節の雑音や大きく口が開かないなどの機能的な障害が大半で、痛みが出る率は全体の30から40%ほどです。また、症状には急性のものと慢性のものがあります。急性症状は突然痛みが現れ痛くて口が開かなくなり、症状によっては食事や会話が困難になります。慢性症状では普段痛みはほとんどなく、主に顎を動かしたときに「カクカク」する雑音が現れます。放置すると雑音は大きくなり周囲の人にも聞こえるような手の関節を「ポキポキ」鳴らす音になります。さらに症状が進行すると痛みがなくても口が開かなくなったり、口を大きく開けると痛みが出ることがあります。重度に移行すると関節が硬く癒着し口はほとんど開かなく、開けるときに激痛が生じることもあり、場合によっては関節内注射や関節切除などの外科手術が必要となります。
顎関節症の原因
かみ合わせの異常(内在性外傷)
不適切な金属冠(被せ物)や虫歯でかみ合わせの異常(慢性内在性外傷)を引き起こすことによって症状が現れます。簡単にいうと、虫歯になったり、歯や被せた金属、プラスチックが壊れる、錆びる、などでかみ合わせが悪くなることです。例えばプラスチックや金属の冠が入れたときから不適合だったり、長年磨り減ったままの状態で使用していると、かみ合わせは元の正常な位置から「ズレ」を生じます。そのまま長期放置すると「ズレ」た状態で噛もうとするためバランスが崩れ顎や全身に異常が起こります。
他にも、横向きの「親知らず」が生えていたり、歯を抜歯した状態で放置するとかみ合わせが悪くなります。横向きの親知らずは手前の歯に負担をかけるため、歯並び全体がゆっくりと元の位置より前方に移動します。また、抜けた歯を放置した場合では、その歯を中心に前後の歯が倒れ込みます。歯を移動させる歯列矯正も同様の現象がおこることがあり、無理な矯正治療には注意が必要です。
異常咬合、過剰運動、異常習癖(外来性外傷)
くいしばり、歯軋り、噛みすぎ、頬杖を付く、弄舌などがあります。
顎関節の周辺組織に無理な力や強い力が加わった場合、関節の組織を破壊的する作用があり顎関節症を発症します。
とくに過度の歯軋り、食いしばりは顎関節症を発症させやすいとされています。これらは異常機能運動または悪習癖などと呼ばれているほどで、顎や筋肉に悪影響を与えます。歯ぎしりや食いしばりは、無意識のうちに顎の筋肉を異常に緊張させます。その結果、関節周囲の組織や歯にも強い力が常に加わります。関節に強い力が加わると関節が押し込まれ組織自体が破壊され、関節の形を変えてしまったり、周囲の筋肉を痛めます。歯の表面は次第にすり減り、場合によっては壊れたり抜けてしまうこともあります。これらの現象は同時にかみ合わせも変化するほか、筋肉や関節にも傷害を与えます。
また、頬杖や猫背、前屈みなどの悪い姿勢も同様に関節に負担をかけることになります。とくにデスクワークでは姿勢を崩しやすく、頬杖、猫背、前屈みなどが無意識の間に出現します。頭の重さは4〜6キログラムありボーリングの玉ほどの重さになります。デスクワークでは長時間に亘り猫背、前屈みになりやすく頭の位置が前方に傾くため、頭の重さを支えようと頬杖を始めたり、顎、首、肩の筋肉を硬く緊張させ顎に症状が出るほかに首や肩も凝ります。顎関節症の症状が出る人は顎の筋肉を異常緊張させた「くいしばり」「噛みしめ」がみられます。
咀嚼筋の異常緊張
精神的、心因的なストレス、憂鬱、不安などが関与すします。
咀嚼筋がイライラや不安など、ストレス性の原因で過度に緊張することで顎関節に負担がかかることがあります。人体の筋肉は交感神経と副交感神経の支配を受けています。交感神経は身体を興奮、緊張状態にする働きがあり、副交感神経は休息、安静にさせる働きがあります。現代社会ではノルマ主義、受験戦争、対人関係など多くのストレス
が存在しており、うまくバランスがとれない状況が発生します。外部からストレスや緊張が続く状況では、交感神経が刺激され優位となり、筋肉の緊張を抑制することが出来ません。物事に集中しているときについつい食いしばっているのはそのためです。緊張状態が長くなるに連れ筋肉が過度に緊張し顎関節に負担がかかります。関節に負担がかかり、組織がダメージを受けると音が鳴ったり、痛みとなって現れます。
日常生活では顎を痛めた状態でも食事や会話などをする必要があるので症状の改善は遅れます。症状が長期になるほど自己回復は難しくなり注意が必要です。
顎関節症の治療は通常の歯科治療とは異なり長期になりますが、これは日常的に顎を休めないことも関連しています。
顎関節症の低年齢化
顎関節症が多く発症するのは20代から30代女性です。他の年代や男性にはあまり見られないことから骨格や食生活が関連していると考えられます。飽食の時代の近年、代表的な日本食とは異なりあまり噛まなくても飲み込むことが出来る加工食品や料理が増加傾向にあります。例えばカレーライス、ハンバーグ、ファーストフード、レトルトなどがありますが、これらの食事は噛む力を必要とせず、噛む回数も少ないため顎を動かす咀嚼筋を使いません。骨格は筋肉の活動によって成長し発達します。顎も同様に咀嚼筋を動かすことによって大きく成長し発達することができるのです。幼少のころからこのような食事を食べていると顎の成長が不十分となり、顎に負担が加わったときに容易に顎関節症の症状が出ると考えられます。
同様の生活をしても男性や他の年代の女性に発症が少ないのは体格差や骨格にあります。元々男性は女性よりも遺伝的に骨格が大きく、比例して顎関節の能力及び構造も女性に比べて大きな構造をしています。多少顎が小さくなり、噛み合わせが変化しても発症し難いと考えられます。30代より年齢が上の女性で顎関節症が少ないのは骨格形成時期に十分な運動と、今日のような軟らかい食事ではなく噛み応えのある食生活をしていた結果、関節も成長し発症しにくいと考えられます。
顎の発育途中になる子供には顎関節症はあまりみられませんが、増加傾向にあるようです。
子供の体、とくに筋肉や関節は柔軟にできていますが、近年ではファーストフードなど噛まなくても飲み込める食生活により顎が十分に発達していません。他にも勉強やテレビゲームの普及で外遊びの時間が減少するなど全身の筋力低下があります。また、現代社会の子供はデスクワーク、学校生活、受験勉強、対人関係など、社会人以上にストレスを受けることもあります。テレビゲームやデスクワークなどは姿勢を崩しやすく頬杖や猫背、筋力不足になり、ストレスは交感神経を刺激し顎の筋肉を異常緊張させ、関節に負担が生じてしまいます。この他にも顎の劣成長は脳の発達はもちろん全身の活力や身体能力に大きく影響してくると考えられます。顎の成長が止まる16〜18歳までには十分に運動をさせ基礎体力を付け過度のストレスを減らすように注意をする必要があります。
日常生活での予防方法
顎関節症の症状はデスクワークをする人に多く見られます。デスクワークでは姿勢を崩しやすいため意識をして頬杖や猫背をやめ姿勢を正すことが必要です。デスクワークに限らず仕事に集中したりストレスが加わると顎の筋肉は緊張し「食いしばり」「噛みしめ」などが現れます。イメージとし四十肩や五十肩を思い浮かべてください。デスクワークなどで肩を動かさないでいると関節の稼動範囲が狭くなり、急に動かすと肩が痛みが出ます。顎関節も同様で顎を動かさずにいると急に口を開けたときに痛みが生じます。これらを防止するには仕事の合間に口を大きく開ける開口訓練や適度な全身運動をしてストレスを発散する必要があります。時間がなければその場で1分間飛び跳ねると血行が良くなり気分転換になります。
また、歯科的処置として親知らずや虫歯の治療、治療途中の歯があれば長期放置せずに処置を受ける必要があります。合わなくなった金属や入れ歯、削り過ぎてしまった場合などもかみ合わせの変化で顎関節症になることがあります。これらは検査後新しく作り変えた方が良い場合もあります。毎晩歯軋りをする人は歯科医院でマウスピースを製作してもらいましょう。
顎関節症チェック
普段から顎が痛い
口を開けると音がする
口が大きく開かない(指3本以下)
食事をすると顎が痛む
口がまっすぐ開かない
朝起きると顎が痛い
耳の周辺が痛い
過去に顎が痛くなったことがある
一つでも当てはまると顎関節症の疑いがあります。